「資源産業」とは何か。
「資源産業」とは何か。

1971年に通商産業省(現経済産業省)の鉱山石炭局が発表した報告書では、「資源を採取し、 これに製錬、精製等の二次加工をくわえることにより消費財、耐久財、エネルギー箸を生み出す産業に素原料を供給する産業」を総括して「資源産業」と定義し、鉱山業、石油鉱業、石炭鉱業、非鉄金属精錬業、鉄鋼産業、石油精製業などのすべてを包括している。

なおここで鉱種(製品種類軸)の広がりとともに、「資源を採掘する産業」と「それを加工供給する産業」の2つを掲げ、垂直的段階軸についても幅のある定義をとっていることに注目すべきである。この理由について、同報告書は次のように述べている。第一に、 日本ではこれらは別々の産業だが、世界的に資源関連の主要企業が「いわゆる一貫体制」をとつているのが通常であること。第二に、「このような一貫体制機能を備えている企業こそ原則的に低廉安定的に供給する健全な産業として評価しうるものであると考えている」こと。

現実に、日本の非鉄金属企業、石油精製企業は採掘部門をもたないか、 きわめて貧弱であるのに対して、例示されている海外企業は採掘部門と製錬・精製部門とを垂直統合する統合企業である。

鉱物資源の採掘から加工にいたる継起的な諸工程は、最初はそれぞれ独立した産業を構成し、単一事業・単一機能の単純企業によって担われていたが、「現代企業」が登場した国では一般的傾向にしたがって垂直統合が進んだ。

チャンドラー自身がアメリカ(石油、鉄鋼、銅、ニッケル、鉛、亜鉛、アルミニウム)およびドイツ(銅、鉛、亜鉛、鉄鋼)における垂直統合の事例について詳述している(Chandler 1977、1990)。そこでは採掘業からの前方統合、加工業からの後方統合、あるいは垂直統合に向かわずに単純企業にとどまる事例があり、最終的には垂直統合企業が覇権を握るというストーリーが描かれている。

一方、多国籍企業論で著名なR.バーノン(Vernon 1983)によれば、1978年の時点で垂直統合による企業内取引は鉱種によっては多数派ではない。それとは対極にスポット取引が存在し、その後の時期を含めて世界的な規模で市場取引の制度化が進むことになった。非鉄金属におけるLME(London Metal Exchange;ロンドン金属取引所)、原油におけるNYMEX(New York Mercantile Exchange;ニューヨーク・マーカンタイル取引所)などの商品先物市場の発達がそれを支えた。そして両者の中間に多様な取引形態が存在している。

したがって、垂直統合が必ずしも「通常」とはいい切れない。それが「低廉安定的に供給」できるとも限らない。バーノンは石油、鉄鉱石、銅、アルミニウムの事例について日米の資源調達システムを比較研究したうえで、戦後のある時期、アメリカの垂直統合方式よりも日本の方式の方が高い成果をあげたと論じ、その後、両者は収飲の傾向にあることを示唆している。

しかし、それでも垂直統合による事業システムが一定の程度で存在・存続し、そうではない複数企業によるネットワークの場合とのあいだで、各工程における競争とともに、サプライチェーン全体の総力による競争がおこなわれている。したがって採掘および製錬・精製を含む一貫した諸工程を包括するような「資源産業」の定義が有効であると考えられる。