1.インドのレアアース政策における日本の競争力・戦略
インドは世界有数のレアアース資源国であり、特に沿岸地域で希土類鉱物(モナザイトなど)を豊富に保有しています。これまで日本は、中国依存からの脱却を図る戦略の一環として、インドとのレアアース協力を進めてきました。代表例として、2012年に日本とインドの間で結ばれたレアアース供給協定(IRELと豊田通商)があります。
しかし2024~2025年にかけて、インド政府は国家的資源保護の観点から、特定のレアアースの輸出規制を強化し、日本向けの供給を一時停止する動きに出ました。
1.1.インドの政策転換の要点
- インドは戦略鉱物の国内活用を優先し、特にEVや防衛産業向けサプライチェーンの確保を目的に輸出制限を強化。
- 中国のレアアース戦略を教訓に、「加工・磁石製造技術の国内化」を加速。
- 国家主導で民間企業との合弁による加工・製錬施設の設立を検討。
1.2.日本の競争力と戦略課題
| 観点 | 現状 | 課題・戦略 |
| 資源アクセス | 豊田通商などを通じてIRELと供給契約 | 国家間協定が民間に依存、インド側の方針変更に脆弱 |
| 技術協力 | 精錬技術や環境配慮型抽出技術でリード | 技術移転要求にどう対応するかが焦点 |
| 供給多角化 | 豪州Lynasや米国MP Materialsなど代替候補 | 代替先確保と「回収・リサイクル技術」での優位確保がカギ |
| 現地展開 | 製造拠点は限定的 | 現地パートナーとの合弁投資の模索が必要 |
1.3.展望と提言
– 日本は、インドのレアアース政策を「単なる資源調達先」ではなく、「共創型技術パートナーシップ」へ転換すべきです。
– 特に、「製錬技術の提供」と引き換えに「供給安定の保証」を得る戦略が中長期的に有効です。
– 同時に、日本企業はリサイクル(都市鉱山)の技術をインドへ輸出する形での協力モデルも構築すべきです。
2.インドの経済産業政策全体における日本の位置づけと戦略
インドの経済産業政策は、「アトマニルバル・バーラト(自立したインド)」のスローガンの下、輸入依存の低減、国内製造業の強化、先端分野での自国技術力の向上を目指しています。
この文脈において、日本は伝統的に「高信頼・高技術のパートナー」として評価されてきましたが、韓国・台湾・中国・欧州などとの競争も激化しています。
2.1.インドの産業政策における重点領域
| 分野 | 日本企業の競争力 | インドの戦略方針 |
| 自動車(EV含む) | トヨタ・スズキ系が強い | 現地生産義務化、サプライチェーン現地化 |
| インフラ・鉄道 | 日立・三菱重工などが実績 | メイク・イン・インディア政策の中心分野 |
| 半導体・ICT | ラピダス構想などと連動可能性あり | 半導体製造拠点(タミル・ナードゥなど)に注力 |
| 再生可能エネルギー | 日立・パナソニックなどが技術力 | グリーン水素・太陽光が政策的重点 |
| 医療・ライフサイエンス | シスメックスなどが浸透中 | 安価で高品質な医療機器の国産化志向 |
2.2.課題と展望
– インドはFDI(外国直接投資)には寛容だが、「技術移転」「現地雇用」「現地製造」への要求が非常に強い。
– そのため、日本企業は「単独進出」ではなく「現地合弁」「技術協力」を軸とした戦略的進出が必要。
– 遅れがちだったスタートアップ連携やグローバルサプライチェーン構築でも、日本は再定義を迫られている。
3.日本の戦略的位置づけの再構築
| 項目 | 日本に必要な対応 |
| 技術移転・教育連携 | 工科大学・技能研修との連携強化、現地人材の育成 |
| 現地政策との整合性 | 国家戦略と連動した進出計画(例:国家EV政策との連携) |
| インフラ提供 | 資金だけでなく、都市開発・鉄道・物流・水処理等の統合的支援 |
| 民間連携の深化 | JETRO・JBIC・NEDOなどとの三位一体モデルで中長期的支援 |
4.総括
– レアアース政策の観点では、日本は単なる調達国からの脱却が求められ、「インド国内の加工・磁石製造支援」という新たな協力軸を模索すべきです。
– 経済産業政策全体の観点では、製造業、EV、インフラ、半導体などで「共創型の技術・人材・資本投入モデル」を強化することが、インドとの関係深化に不可欠です。
– インドの「ナショナル・チャンピオン育成政策」に逆行しない形での参入が、今後の日本企業の成否を分ける鍵になります。
