日本国内で「資源ビジネス」を志向し、世界を相手に収益を狙う場合、まず「資源」をどう定義するかで戦略が大きく変わります。
日本国内で「資源ビジネス」を志向し、世界を相手に収益を狙う場合、まず「資源」をどう定義するかで戦略が大きく変わります。

通信機産業とコンピュータ産業は、電気を利用する機械をつくるという点では共通していますが、その役割は重電機産業とは大きく異なります。重電機が電気をつくり、送電し、工場などで動力として利用するための設備を担うのに対して、通信機は情報を遠くへ伝え、コンピュータは情報を蓄積・計算・処理するための技術を担います。

この二つの産業の発展によって、情報は単に人から人へ伝えられるものではなくなりました。大量の情報を高速で処理し、組織や機械を動かし、企業活動や社会生活そのものを変える資源になったのです。

日本の通信機・コンピュータ産業の歩みを理解するには、技術の進歩だけでなく、国家や公共機関との関係、巨大な研究開発投資、企業間競争、そして市場の変化に対応する難しさにも目を向ける必要があります。

1. 通信機産業の出発点――電気を使って情報を伝える

通信機産業と重電機産業はどのように違うのか

電機産業には、大きく分けて、発電機や電動機などを中心とする重電機の流れと、電話機や無線通信機などを中心とする通信機の流れがあります。通信機産業は、電気を利用して情報を伝える技術の発展とともに成長してきました。

その起点の一つが、電信に使われたモールス通信機です。電気信号を使って文字情報を遠隔地へ伝える技術は、やがて電話による音声通信、無線通信、さらにデータ通信へと発展していきました。

通信技術の進歩は、単に連絡を便利にするだけではありません。離れた場所にいる人々が同時に情報を共有できるようになれば、企業の管理方法、軍事作戦、行政、金融取引など、社会のさまざまな仕組みが変わります。通信機産業は、情報の流れを支える基盤をつくる産業なのです。

通信技術の進歩が社会の可能性を広げた

通信機器の発展によって、電話で声を伝えるだけでなく、画像やデータを遠隔地へ送ることも可能になりました。また、通信網にコンピュータを組み込むことで、交換機が情報を自動的に処理し、多数の通信を効率よく接続できるようになりました。

航空機や船舶の誘導、遠隔地との情報交換、データ処理など、通信技術の利用範囲は大きく広がります。通信機産業の特徴は、機器そのものを販売するだけでなく、社会全体の情報伝達能力を高めるところにあります。

2. 通信機産業と国家――公共性の高い市場が産業を育てた

軍事・行政・公共インフラとの深い結びつき

通信機産業は、その成立当初から軍事や国家政策と深い関係を持ってきました。国防や行政にとって、通信網は情報を伝達し、組織を動かすための重要な設備です。通信が途絶すれば、軍事活動だけでなく、災害対応や社会インフラの運用にも大きな影響が生じます。

電話通信、無線通信、データ通信、放送などの事業には、大規模な設備投資が必要です。通信網は多くの利用者が接続するほど効率的に運用できる一方、同じ地域に複数の通信網を重複して整備することは、経済的に非効率になる場合があります。そのため、各国では通信事業を国営・公営としたり、政府の監督下に置いたりする仕組みが発達してきました。

公共機関の発注がメーカーの技術開発を支える

公共性の高さは、通信機器を製造する企業の経営にも影響します。通信機器の主要な顧客が公社や政府関係機関であれば、メーカーは大規模で継続的な需要を見込みやすくなります。発注側が新技術の開発や導入を主導し、その要求に応える形でメーカーが製品を開発する関係も生まれます。

この構造には利点があります。公共機関が新技術の導入を進めることで、メーカーは技術開発の方向性を定めやすくなり、長期的な研究にも取り組みやすくなるからです。公共機関が技術の利用者であると同時に、技術革新を促す役割を果たすのです。

ただし、公共需要に強く依存することには課題もあります。発注先が限られると、メーカーは特定の顧客の仕様や調達方式に合わせた経営になりやすく、一般市場での販売や海外市場への展開が遅れる可能性があります。公共機関による厳格な価格・原価管理は、過大な利益を抑える一方で、メーカーの経営や投資回収のあり方にも影響します。

通信機産業の成長を考える際には、公共需要が技術開発を支えた面と、官公需依存が市場拡大の制約になり得る面の両方を捉えることが重要です。

3. 通信機メーカーの成長と壁――多角化はなぜ難しかったのか

公共需要を中心とした成長モデル

通信機メーカーは、官公庁や公共機関からの発注を受けながら、技術力と生産能力を高めてきました。通信設備は長期間にわたって使用されるため、安定した取引関係を築けることは、企業にとって大きな利点でした。

一方、発注が過去の納入実績などに左右される市場では、新規参入企業が顧客を獲得することは容易ではありません。既存メーカーは経験や信頼を蓄積できる反面、競争相手が限られた市場の中で事業を展開しやすくなります。

そのため、企業がさらに成長するには、公共需要だけに依存せず、一般消費者や民間企業を対象とした市場にも進出する必要がありました。

家電市場への進出と多角化の挫折

1960年代には、家庭用電気製品の需要が大きく伸びました。通信機メーカーの中にも、この成長に期待して家電分野へ進出する企業がありました。しかし、通信機分野で培った技術力が、そのまま家電市場での競争力につながるとは限りませんでした。

公共機関向けの通信設備と、一般消費者向けの家電製品では、求められる経営能力が異なるからです。通信設備では信頼性や仕様への適合、長期的な保守が重要になります。それに対して家電市場では、価格、デザイン、使いやすさ、販売網、広告、商品企画などが競争を左右します。

つまり、製品をつくる技術だけでなく、誰に何を売り、どのように選ばれるかを考える能力が必要なのです。通信機分野で成功した企業であっても、異なる市場の競争原理に適応できなければ、多角化は難しくなります。

輸出にも独特の難しさがあった

通信機器は海外市場にも販路を広げられますが、通信網は各国の制度や規格、公共インフラと深く結びついています。そのため、海外への輸出では、製品の性能や価格だけでなく、相手国の通信事業者や政府機関との関係も重要になります。

当時の日本の通信機産業は国際水準の技術力を備え、輸出も伸び始めていました。しかし、官公需への依存が強い企業体質などが制約となり、ほかの機械産業ほど輸出を拡大できていないという問題が指摘されていました。

通信機産業の競争力を高めるには、技術開発力だけでなく、海外の制度や顧客のニーズを理解し、異なる市場で事業を展開する能力も必要だったのです。

4. コンピュータ産業の誕生――計算機から情報処理システムへ

コンピュータの登場は産業のあり方を変えた

世界初期の電子計算機の代表例であるENIACは、1946年に完成しました。日本で国産の商用コンピュータが登場したのは1950年代後半です。コンピュータ産業は、誕生から短い期間で急速な技術革新を経験した産業でした。

コンピュータの特徴は、単なる計算機ではないことです。中央演算処理装置、制御装置、記憶装置などのハードウェアに加え、それを動かすプログラムや運用手順が組み合わさって、初めてシステムとして機能します。

さらに、周辺装置、ソフトウェア、保守、情報処理サービス、データ通信など、多数の関連分野が発展しました。コンピュータを一台製造するだけでは、利用者が必要とする情報処理の仕組みは完成しません。機器とソフトウェア、サービスを一体として提供することが重要になるのです。

技術革新の速度が非常に速い

コンピュータ産業の大きな特徴は、世代交代のたびに性能や機能が大幅に変化することです。技術の進歩を飛行機にたとえるなら、プロペラ機からジェット機へと進化するような飛躍が、製品世代の交代に伴って繰り返されることになります。

このような産業では、現在の主力製品で成功していても、その地位が将来まで保証されるわけではありません。企業は研究開発を続け、新しい技術を製品に組み込み、次世代の市場に備える必要があります。

そのため、コンピュータ産業では、研究開発費の負担が大きくなる一方、開発が遅れれば競争力を失う危険も高まります。技術力を維持すること自体が、企業経営の重要な課題になります。

5. コンピュータ産業の構造――巨大な投資と知識の集積

資本集約型の「ガリバー型産業」

コンピュータ産業は、高度な知識と技術を必要とするだけでなく、研究開発や生産設備に巨額の資金を必要とする産業でもあります。高性能な製品を開発するには、専門的な技術者を確保し、長期的な研究を継続しなければなりません。

さらに、開発した技術を多くの製品に展開できれば、研究開発費をより多くの販売台数で回収できます。このような規模の経済が働くため、大企業が有利になりやすく、市場の中で少数の巨大企業が大きな存在感を持つ「ガリバー型」の構造が生まれます。

ただし、企業規模が大きければ必ず勝てるわけではありません。技術の世代交代が速いため、過去に蓄積した設備や技術が新しい競争環境に適合しなくなることもあります。巨大な投資能力と、技術変化に柔軟に対応する能力の両方が求められるのです。

ハードウェアだけでなく、周辺産業が市場を広げる

コンピュータ産業の広がりを理解するには、コンピュータ本体だけを見ていては不十分です。周辺機器、端末機器、ソフトウェア、情報処理サービス、情報提供サービス、保守、賃貸など、多くの関連産業が存在します。

たとえば、企業がコンピュータを導入するときには、機器を購入するだけでなく、業務に合わせたプログラムを整備し、従業員を教育し、データを移行し、稼働後の保守体制を整える必要があります。こうした仕事が新たな事業分野を形成します。

コンピュータの価値は、機器の性能だけで決まるのではありません。導入によって仕事の進め方がどれだけ改善されるか、どのような情報を利用できるようになるかによっても決まります。そのため、コンピュータ産業は製造業でありながら、サービス業とも深く結びつく産業なのです。

省資源・省エネルギーと高付加価値化

コンピュータは、情報を処理することで、企業活動や社会の運営を効率化する可能性を持っています。大量の計算や事務処理を自動化すれば、作業時間や資源の節約につながります。製造工程や物流を適切に管理することも、生産性の向上に結びつきます。

また、高度な技術や専門知識が製品の価値を左右するため、コンピュータ産業は高付加価値型の産業として発展してきました。ただし、情報処理によって省資源化が進む一方で、機器の製造や稼働には資源とエネルギーが必要です。情報化の効果を考える際には、便利さだけでなく、設備の維持や更新に伴う負担も視野に入れる必要があります。

6. 日本のコンピュータ産業――国産化と企業グループの再編

国産コンピュータを育てる仕組み

コンピュータ産業では、海外の先進企業との技術格差を埋めながら、国内の生産・開発基盤を育てることが重要な課題でした。日本では、政府や公共機関による国産機の利用、メーカーへの発注、研究開発の支援などが、国内企業の成長を支える役割を果たしました。

当時は、コンピュータを購入したくても導入費用が大きく、利用者にとって負担が重いという問題もありました。そこで、日本電子計算機(JECC)が設立され、メーカーが製造したコンピュータを買い取り、利用者に賃貸する仕組みが整えられました。

この仕組みには、利用者が高額な機器を一括購入せずに導入しやすくなる利点があります。同時に、メーカーにとっても製品の販売・利用を支える仕組みとなりました。技術開発だけでなく、資金調達や販売方法を工夫することも、産業育成の重要な要素だったのです。

外資系企業の撤退と国内メーカーの再編

コンピュータ市場では、海外の巨大企業との競争が避けられませんでした。日本では国産コンピュータの技術開発や国内市場の確保を進める一方、海外企業の動向も国内産業の構造に影響しました。

当時、GEやRCAなどの米国企業がコンピュータ事業から撤退したことを契機として、世界的な業界再編が進みました。日本でも1970年代初め、通商産業省の誘導のもとで国内メーカーのグループ再編が行われました。資料には、富士通・日立、日本電気・東芝などの組み合わせが挙げられています。

こうした政策には、国内企業の技術開発力を強化し、海外の巨大企業に対抗できる体制を整える狙いがありました。巨大な研究開発費を負担しながら国産技術を育てるには、企業間の協力や市場の確保が重要だと考えられたのです。

もっとも、企業グループの形成には、競争を維持することと、研究開発を共同で進めることの両立という難しさもあります。産業政策は、企業を単に保護するだけでなく、技術革新を促しながら競争力を育てる仕組みとして設計されなければなりません。

7. 自由化と国際競争――国内市場を守るだけでは成長できない

国産化から輸出へ

国内市場を中心に発展してきた日本のコンピュータ産業にとって、国際競争への対応は大きな課題でした。コンピュータは国境を越えて利用できる製品であり、技術水準や価格競争力が高ければ、海外市場にも展開できます。

一方、研究開発費が大きい産業では、国内市場だけでは十分な販売規模を確保できない場合があります。輸出を伸ばし、より広い市場で製品を販売できれば、研究開発への投資を回収しやすくなります。規模の経済を生かすことは、国際競争力を高めるうえで重要です。

ただし、国際市場では海外の有力企業と競争しなければならず、国内市場での実績だけでは優位性を保てません。製品の性能、価格、ソフトウェアやサービスの充実度、顧客の業務に適合させる能力などが問われます。

市場構造そのものが変化する

コンピュータ産業の市場は、技術の進歩によっても変わります。コンピュータの利用分野が広がれば、新しい顧客や用途が生まれ、関連サービスも成長します。その一方で、従来の製品や販売方法が新しい市場のニーズに合わなくなることもあります。

こうした変化に対応するためには、単に高性能な機器を製造するだけでなく、利用者が何を必要としているかを理解し、ソフトウェアや情報処理サービスを含めた仕組みを提供することが必要です。技術を開発する能力と、それを市場で価値に変える能力は、互いに補い合う関係にあります。

8. 通信機・コンピュータ産業から考える、技術と産業政策の役割

通信機産業とコンピュータ産業は、技術革新が産業の成長を左右するという点で共通しています。しかし、技術力だけで産業の成功が決まるわけではありません。顧客の構成、市場の規模、企業の投資能力、国際競争、政策のあり方などが、技術を産業競争力へと結びつけます。

通信機産業では、公共機関の需要が安定的な市場を形成し、メーカーの技術開発を支えました。その反面、官公需に依存した企業体質は、民間市場への進出や輸出拡大の制約にもなりました。

コンピュータ産業では、研究開発への巨額投資と急速な技術革新が、企業規模や産業構造を大きく左右しました。日本は国産化を進め、企業グループの再編や利用を促進する仕組みを通じて産業基盤を整えましたが、国際競争に対応し続けるには、技術開発と市場開拓の両面で努力が必要でした。

この歴史から得られる重要な教訓は、産業を育てることと、産業が自立して競争できるようにすることは、同じではないという点です。公共需要や産業政策によって企業の成長を支えることはできます。しかし、長期的な競争力を確立するには、企業自身が新しい技術を生み出し、変化する市場に対応し、国内外の顧客に価値を提供できなければなりません。

現代の視点から見れば、通信とコンピュータの融合は、インターネット、クラウド、スマートフォン、人工知能などにつながる大きな流れの一部でもあります。通信設備と情報処理が一体化するほど、産業の競争力は個別の機器だけでなく、ソフトウェア、データ、サービス、運用基盤を組み合わせる能力によって左右されるようになります。

通信機・コンピュータ産業の歴史は、技術革新を産業の成長へ結びつけるためには、技術、企業、市場、政策を一体として考える必要があることを示しています。