インドのレアアース政策と経済産業政策における 日本の位置づけ・戦略分析
インドのレアアース政策と経済産業政策における 日本の位置づけ・戦略分析

1. 概要

西之島(にしのしま)は、東京から南へ約1,000km、小笠原諸島に属する火山島である。硫黄島の北西に位置し、直径約30kmに及ぶ海底火山の頂部がわずかに海面上に現れた部分にあたる。最古の記録は1702年、スペインの帆船ロザリオ号による発見で、当時は南北200m、東西50m、標高25mほどの小島だった。1972年以前の西之島は面積0.07平方キロメートル、南北650m、東西200mの細長い島で、噴火記録のない静かな島だった。

この島が世界的な注目を集めるのは、①1973〜74年の噴火、②2013年以降の断続的な大規模噴火という二つの活動期を経て、面積が当初の40倍以上にまで成長したためである。以下、時系列で経過を追い、その上で地質学・生態学(自然科学)、社会学、政治学・政策の各視点から位置づけを整理する。


2. 成長の過程——時系列で見る西之島

2-1. 第一期:1973〜74年噴火(「新島ブーム」)

この海底火山は噴火の記録がなかったが、1973年に気象庁の表現で「有史以来初めて」噴火し、大量の溶岩流や火山噴出物が海面上まで堆積して新しい陸地を形成した。

  • 1973年4月〜:西之島東方海域で変色海域、白煙、噴煙などの前兆現象。
  • 1973年9月:9月11日に直径30〜50mの新島を発見、9月14日には旧島南端から116°方向600mの地点に径約150m・高さ40mの新島を確認。噴石や水柱が観測された。
  • 1973年9〜12月:9月29日に新島主火口から溶岩が流出し第2新島が出現、10月には第3新島も出没して10日には第1〜3新島が陸続きとなった。12月21日、海上保安庁がこれを「西之島新島」と命名した。
  • 1974年:3月には新島東北端に「新々島」が出現し溶岩流出が続いたが、6月10日に新島と旧島が結合。8月の航空測量では面積316,000平方メートル(うち新島分238,000平方メートル)に達した。マグマ噴出量は0.017 DRE km³と記録されている。
  • この新しい陸地の誕生は「新島ブーム」として当時マスコミに大きく報道され、社会的な話題となった。

噴火終了後、島は安泰だったわけではない。噴火終了後の海食・浸食が進み、特に噴火終了後3年間は海岸線・海食崖の後退速度がそれぞれ年60m、80mに達するなど、陸上部の面積は減少傾向をたどった。1980年代以降は北岸湾入部の埋め立てによる拡大が浸食量を上回るようになり、1990年頃までに湾入部はほぼ埋め立てられたが、その後は再び面積減少傾向が続いた。つまり1973〜74年噴火による成長の大部分は、波浪浸食によって一度失われかけていたのである。

2-2. 第二期:2013年噴火の再開と急拡大

約39年間の静穏期を経て、2013年11月に活動が再開する。

  • 2013年11月20日:海上保安庁の航空機が西之島南南東約500mの海域に新島を確認。
  • 2013年12月26日:新島と旧島が一体化。
  • 2013〜2015年:新たに形成された噴石丘からのマグマ水蒸気噴火が繰り返され、これは1973〜74年噴火初期と類似した様式であった。今回の噴火地点は1973〜74年噴火時の火口位置とほぼ同じ場所にあたる。2013年11月以降の溶岩流出により1973年噴火後に形成された島の全域が覆われ、2015年時点では地表に植物の存在が確認できない状態となった。
  • 2015年3月時点:面積は旧島を含め約2.5平方キロメートルに拡大。海域火山の噴火活動が1年以上継続することは世界的にも珍しい現象として、火山専門家から注目された。
  • 2017〜2019年:溶岩流出を伴う噴火が断続的に発生し、面積は2017年に2.73平方キロメートル、2019年には2.89平方キロメートルまで拡大した。
  • 2019年末〜2020年:2019年12月以降の火山活動により、それまで生態系が維持されていた旧西之島部分の全てが溶岩または火山灰に覆われ、新たな大地が形成された。これにより生物相は事実上「リセット」された。2020年6〜8月には特に活発な、大量の火山灰を噴出する噴火に移行した。
  • 2021〜2023年:2021年8月、2022年10月にも噴火が確認された。2023年2月時点では、2020年以降、溶岩流を伴う噴火は発生していない。
  • 2023年10月:これが直近の噴火であり、2026年3月時点でもこれ以降の噴火は観測されていないが、山頂火口付近の噴気活動は継続し、島周囲では変色水が引き続き確認されるなど、比較的活発な火山活動自体は続いていると評価されている。
  • 2025〜2026年現在:2025年は噴火こそ観測されなかったが、山頂火口付近の噴気活動は継続し、周囲では変色水が年間を通じて確認されている。2026年7月時点でも噴火警報(周辺海域警戒)は継続中で、上陸・接近はできない状態が続いている。

2-3. 成長規模のまとめ

時期面積(概算)
1972年以前約0.07 km²
1999年約0.29 km²(1973-74年噴火の結果)
2013年噴火直前約0.29 km²
2017年約2.73 km²
2019年(改訂時)約2.89 km²
2020年以降約2.9〜3 km²前後で推移(噴火の都度変動)

2020年時点で直径約2.5kmの大きさにまで成長したが、これは裾野の直径30km以上、比高3,000mに及ぶ富士山級の海底火山体全体からすれば、海面上に現れた部分はごく一部に過ぎない。


3. 地質学的視点

3-1. 火山学的特徴

西之島は安山岩質の火山島であり、基底直径約30kmの大きな海底火山の頂部に位置する。噴出物のSiO2含有量は51.8〜60.1wt%とされる。1973〜74年噴火、2013年以降の噴火とも、海底でのマグマ水蒸気爆発から始まり、火砕丘の形成、溶岩流出という共通のパターンをたどっている点が火山学的に興味深い。2013年の噴火地点が1973〜74年噴火口とほぼ同じ位置であったことは、この火山系のマグマ供給経路が長期的に安定していることを示唆する。

3-2. 「消える島」と「生き残る島」

日本近海では新島が誕生してもすぐに波浪浸食で消滅する例が多い中、西之島は「生き残った」稀有な存在として位置づけられる。1973〜74年噴火後の島は浸食で大部分を失いかけたが、2013年以降の噴火による溶岩供給がそれを覆う形で島を再建・拡大させた。つまり西之島の成長は、火山活動による供給と波浪による浸食のせめぎ合いの結果であり、単純な「噴火のたびに一方的に大きくなった」歴史ではない。


4. 生態学・自然科学的視点——「原生の実験場」としての価値

西之島は、地質学的な意義に加えて、生態学上も特異な価値を持つとされている。

2013年の噴火に伴う新たな陸地の誕生は、生態系が新たに形成されていく過程を観察できる「千載一遇のチャンス」として国内外から注目を集めている。一方で自然改変や外来生物の持ち込みによってその価値が損なわれる危険性があることから、専門家委員会による保護担保措置の検討がなされている。

  • 西之島は小笠原国立公園の特別保護地区等に指定されており、施設設置等には環境省の許可が必要となる。不注意な上陸は島外の生物を人為的に持ち込むおそれがあり、世界的にも希少な新しい生態系の構築過程を撹乱しかねないため、小笠原諸島世界自然遺産地域科学委員会等が上陸ルールを定めている。
  • 実際、2015年時点では溶岩に覆われ植物の存在が確認できなかった島に、その後海鳥が運ぶ種子や昆虫が定着し、海鳥の排泄物や死骸の分解によって表土が再生しつつある様子が確認された。2015年の合同調査では、わずかに残る旧島部分でアオツラカツオドリの繁殖が確認され、これは過去10年間で唯一の子育て確認例だった。
  • 2016年10月の上陸調査では、アオツラカツオドリのほかカツオドリや渡り鳥(アトリ、ハクセキレイ)、トンボやハサミムシなどの昆虫、オヒシバ・イヌビエなど3種の植物が確認された。
  • しかし、2019年末以降の火山活動により旧西之島部分の生態系は全て溶岩・火山灰に覆われ、生物相は事実上リセットされた。これにより西之島は、原生状態の生態系がどのように遷移していくかを観察できる「世界に類のない科学的価値」を持つ場となった。
  • 2022年度調査では、大規模噴火後初めて藻類とみられる独立栄養生物の採集が報告され、生態系再構築の最初期段階が観察されている。
  • 調査手法も特徴的で、激しい噴火活動により上陸調査が困難なため、調査隊はドローンや無人探査車(ローバー)を用いた遠隔観測を中心に据えており、これは人間の立ち入り自体が生態系撹乱リスクとなることへの対応でもある。

この点で西之島は、「手つかずの生態系がゼロから形成される過程」を人為的干渉を最小化しながら観察できる、世界的にも稀な自然実験場として科学的に位置づけられている。


5. 政治学・政策的視点——EEZ・領海と国境離島政策

5-1. 管轄海域の拡大という国益上の意味

西之島の成長は、日本の「管轄海域」(領海+排他的経済水域=EEZ)の拡大に直結する点で政策的な注目を集めてきた。

日本は「領海及び接続水域に関する法律」(1977年)で低潮線・直線基線等を規定し、この基線からEEZ・大陸棚を設定している(「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」1996年)。領海の基線は海上保安庁の海図に記載される低潮線(海面が最も低くなった際の陸地との境界線)によって定まるため、島の物理的拡大は直接的に管轄海域の拡大をもたらす。

  • 2017年6月の地形図・海図改訂では、2013年噴火前と比較して西之島の面積が2.43平方キロメートル増加し、管轄海域は約50平方キロメートル拡大した。
  • 2019年5月の再改訂では、2017年からの噴火でさらに面積が0.17平方キロメートル増加したのみだったが、陸域が西側に広がったことにより、管轄海域はさらに約50平方キロメートル(領海約4km²、EEZ約46km²)拡大した。
  • この結果、2017年・2019年の2回の改訂を合わせ、管轄海域は計約100平方キロメートル拡大したことになる。
  • ただし全ての拡大がEEZの拡大に結びつくわけではない。2013年時点の新島出現時には、新島の位置がEEZの基線(西之島の西側)より東側にあったため、EEZが拡大する可能性はないと分析されていた。後の噴火で陸域が西側に広がったことで、初めてEEZ拡大効果が生じている。

日本のEEZ面積は約405万平方キロメートルで世界的にも上位に入るが、この広大な海域の多くは伊豆・小笠原諸島や南西諸島などの火山島によって基点が支えられている。仮にこれらの火山島が存在しなければ、日本のEEZは本州・北海道・四国・九州周辺のみとなり、面積は約160万平方キロメートル、現在の4割以下にまで激減してしまう。

火山島はEEZの基点となっているものが多く、領土の12倍にも及ぶ広大なEEZは火山島に支えられているといえる。そのため海上保安庁による火山島の観測は、管轄海域確保の観点からも重要な意味を持つ。

5-2. 国際法上の位置づけ——「島」であることの重要性

西之島の事例は、国連海洋法条約(UNCLOS)第121条における「島」と「岩」の区別という、より大きな国際法上の論点とも関わる。同条約第121条3項は、人の居住や独自の経済生活を維持できない「岩」にはEEZ・大陸棚を認めないと規定しており、この区分をめぐっては沖ノ鳥島の法的地位について中国・韓国政府が「島ではなく岩である」と主張し、日本と見解が対立してきた経緯がある。

西之島は現時点で無人島であり、居住実績もないが、これまでのところ国際的にその「島」としての地位、あるいはEEZ基点としての地位そのものが正面から争われた事例は確認されていない。ただし沖ノ鳥島をめぐる論争は、火山島の成長が直ちに「実効的な管轄海域の拡大」として国際的に無条件に承認されるとは限らないことを示す先例として、西之島の政策的評価においても参照される文脈である。

5-3. 国境離島政策との関係

西之島は現在、火山活動により上陸・接近が制限された「無人・立入制限島」であるが、日本には近年、国境に近い離島の保全・管理を目的とした政策枠組みが整備されてきた。2011年制定の「低潮線保全法」は、EEZ等の保持を図るために必要な低潮線の保全を目的としている。西之島のように活発に地形が変化する島は、この低潮線保全・測量政策の実務上の焦点の一つとなっており、海上保安庁は航行警報の発出や定期的な航空機観測、火山噴火予知連絡会への報告を通じて、噴火災害の防止と海域監視の両面から関与し続けている。


6. 社会学的視点——メディア報道と「島の誕生」という物語

6-1. 「新島ブーム」という社会現象

1973〜74年の新島形成は、当時「新島ブーム」としてマスコミに大きく報道され、大きな話題を呼んだ。

戦後復興期を経て高度経済成長期の終盤にあった日本社会において、「国土が自然に増える」という現象は、災害報道とは異なる、ある種の高揚感を伴うニュースとして受容されたと考えられる。これは、自然災害としての火山噴火とは異なる文脈——国土や国力の「自然な増大」という物語——として消費された点で、社会学的に興味深い事例である。

6-2. 2013年以降の報道と科学コミュニケーション

2013年以降の噴火は、SNSやインターネットメディアの発達を背景に、より科学的関心と結びついた形で報道される傾向が強まった。環境省や海上保安庁、産業技術総合研究所(産総研)などが調査結果を継続的に公表し、「生態系がゼロから作られる過程」という科学的トピックとしての側面が、単なる「領土拡大」報道以上に前面に出るようになった点は、1973年当時との報道の質的な違いとして指摘できる。同時に、EEZ拡大という国益的な文脈も引き続き強調されており、科学的好奇心と国益意識という二つの語りが並存している点が、西之島報道の特徴といえる。

6-3. 「無人・立入禁止」であることの社会的含意

西之島は一貫して無人島であり、政策的にも「上陸を厳しく制限する」という管理方針が採られてきた。2016年6月には関係行政機関が上陸ルールを正式に策定し、学術調査であっても一定の要件を満たす必要がある。これは、通常「国境離島」がしばしば実効支配や有人化という文脈で語られるのとは対照的に、「利用しないこと」自体が政策目標として明示的に選択されている稀有な事例であり、資源利用・実効支配・環境保全という複数の価値の間でどう優先順位をつけるかという政策論としても示唆的である。


7. 総括——西之島をどう位置づけるか

西之島は、単一の学問領域では捉えきれない多面的な対象である。

  • 地質学的には、海底火山の活動サイクルとマグマ供給の安定性を示す好例であり、噴火と浸食のせめぎ合いという動的なプロセスそのものが研究対象となっている。
  • 生態学的には、2019〜2020年の噴火による「生物相リセット」を経て、原生の生態系形成過程を人為的干渉なく観察できる、世界でも類を見ない自然実験場としての価値を持つ。
  • 政治学・政策的には、島の物理的成長が直接的にEEZ・領海という国家管轄海域の拡大に結びつく、火山国・海洋国家としての日本の地政学的特性を象徴する事例であり、沖ノ鳥島のような国際法上の係争事例と対比することで、その意義と限界の両方が見えてくる。
  • 社会学的には、1973年の「新島ブーム」と2013年以降の科学コミュニケーション主導の報道という、時代背景を反映した二つの異なる語りのパターンを提供している。

これらを貫く共通点は、西之島が「まだ利用されておらず、あえて利用しない」ことが積極的に選択された、稀有な国土であるという点である。資源利用や実効支配の強化に向かいがちな国境離島政策の中で、西之島は科学的価値と自然保護を優先する例外的な事例として、今後も地質学・生態学・国際政策の交差点であり続けると考えられる。


主要参考情報源

  • 気象庁「西之島の火山活動解説資料」(各年版)
  • 海上保安庁 海洋情報部「海域火山データベース:西之島」
  • 産業技術総合研究所 地質調査総合センター「西之島2013年の噴火」
  • 国土地理院「西之島の地形図と海図を改版」報道発表
  • 環境省「西之島総合学術調査」報道発表(令和元年度・4年度・5年度)
  • 内閣府「西之島の噴火状況」(海洋政策)
  • 笹川平和財団 海洋政策研究所 Ocean Newsletter
  • 日本国際問題研究所「沖ノ鳥島の地理的・戦略的重要性」
  • 外務省「海洋の国際法秩序と国連海洋法条約」
  • Wikipedia日本語版「西之島」