戦前の日本の鉄鉱石調達
戦前の日本の鉄鉱石調達

産業機械産業は、工場や建設現場、発電所、化学プラントなどで使われる機械を供給し、日本の産業全体の生産力を支えてきました。製品としての機械そのものが注目されることはあっても、その機械が工場の生産性をどれほど高め、どのように産業の発展を可能にしたのかは、意外と見過ごされがちです。

産業機械は、消費者が直接購入する家電や自動車とは異なり、主として企業が生産活動のために導入する「資本財」です。そのため、産業機械産業の成長は、鉄鋼、化学、電力、建設などの設備投資と深く結びついています。日本が戦後の復興から高度経済成長へと進む過程では、企業が工場を新設し、生産設備を大型化・自動化するたびに、産業機械への需要が生まれました。

一方で、産業機械は景気の影響を受けやすく、設備投資が停滞すると受注や生産も落ち込みます。技術力を高めるだけでは乗り越えられない、産業構造上の課題も抱えてきました。

1. 産業機械とは何か――あらゆる産業の生産活動を支える機械

産業機械の幅広い世界

産業機械とは、工場などの生産現場や社会基盤の整備に使われる機械の総称です。対象となる範囲は広く、ボイラーや原動機、土木・建設機械、鉱山機械、化学機械、食品加工機械、繊維機械、印刷・製本機械、プラスチック加工機械、運搬機械、包装機械などが含まれます。金属を削ったり磨いたりする工作機械も、広い意味では機械産業を構成する重要な分野ですが、産業分類上は別に扱われる場合があります。

たとえば、食品工場であれば原材料を加工する機械や包装機械が必要です。化学工場では、原料を反応させたり、液体を移送したり、温度や圧力を管理したりする設備が欠かせません。建設現場では、土を掘る油圧ショベルや資材を運ぶ機械が働いています。

こうした機械は、それぞれ異なる用途を持っています。しかし、共通しているのは、人間の力だけでは難しい作業を可能にし、作業の速度や精度、安全性、規模を高めるという役割です。

機械を売る産業であると同時に、生産能力をつくる産業

産業機械の価値は、機械の販売価格だけでは測れません。機械を導入した工場が、以前より多くの製品を生産できるようになったり、不良品を減らしたり、少ない人員で作業できるようになったりすれば、その効果は導入先の企業全体に及びます。

たとえば、手作業で一日に千個しか加工できなかった部品を、自動化された設備によって数千個加工できるようになれば、企業の生産能力は大きく変わります。さらに、製品の品質が安定すれば、顧客からの信頼や輸出競争力も高まります。

このように、産業機械産業は、ほかの産業が持つ生産能力そのものを引き上げる役割を担っています。産業機械が発達しているかどうかは、その国の製造業全体の競争力にも関わるのです。

2. 戦後日本の産業機械産業――高度経済成長とともに拡大した市場

発展を支えた三つの要因

日本の産業機械産業が本格的に発展したのは、第二次世界大戦後、とりわけ昭和30年代、すなわち1955年以降です。その成長を支えた要因として、旺盛な民間設備投資、著しい技術進歩、そして機械工業を後押しする融資・助成制度が挙げられます。

第一に、高度経済成長のなかで、企業は生産規模を急速に拡大しました。鉄鋼、化学、電力などの基幹産業が設備を増強すると、そこに機械を供給する産業機械メーカーにも注文が入ります。さらに、これらの産業が成長すれば、製品を運搬・加工・包装するための設備も必要になります。ある産業の設備投資が、別の産業の需要を生み、その需要がさらに別の設備投資を誘発するという連鎖が起きたのです。

第二に、技術進歩が機械の性能を高めました。生産量を増やすだけでなく、精度の向上、省力化、自動化、安全性の改善などが求められ、産業機械メーカーには継続的な改良が必要になりました。

第三に、政策面からの支援も重要でした。機械工業の近代化を促す制度や政府系金融機関による融資は、設備の更新や技術導入を後押ししました。機械産業の発展には、個々の企業の努力だけでなく、投資を可能にする金融・制度環境も関係していたのです。

設備投資が設備投資を呼ぶ仕組み

産業機械産業の成長を理解するうえで重要なのは、設備投資が単独で起きるわけではないという点です。

鉄鋼メーカーが生産能力を増やすには、製鉄設備や搬送設備、動力設備などが必要です。化学メーカーが新しい工場を建設すれば、反応装置やポンプ、圧縮機、制御設備などへの需要が生まれます。電力需要が増えれば、発電設備や関連機器の増強も求められます。

このように、企業の投資計画が産業機械メーカーの受注を生み、機械メーカーの生産活動が素材産業や部品メーカーの需要につながります。産業機械産業は、設備投資を通じて産業間のつながりを具体的な形にする存在でした。

ただし、この仕組みには裏面もあります。企業が一斉に工場を新設・増強する時期には需要が急増しますが、設備が一通り整い、投資が落ち着くと、機械の注文は減少します。産業機械産業の成長は、日本経済の拡大を映す一方で、景気の波を増幅する性格も持っているのです。

3. 産業機械の生産拡大――機種ごとに異なる成長の姿

1960年代から1970年代にかけての急成長

産業機械の生産実績をみると、戦後日本の設備投資がどれほど大きな需要を生み出したかがわかります。掲載されている統計では、ボイラー・原動機の生産額は1960年の約1,242億円から1974年には約6,927億円へ、土木・建設・鉱山関連機械などの生産額も1960年の約535億円から1974年には約7,275億円へと拡大しています。

出典:アップロード資料に掲載された産業機械の機種別生産実績表。金額は当時の名目額。

こうした増加の背景には、工場の大型化だけでなく、都市化や道路整備、建設需要の拡大、化学工業の発展など、複数の動きがありました。土木・建設機械の需要は道路やダム、建築工事などに左右され、化学機械の需要は化学工場の新設や増強に影響されます。産業機械と一口にいっても、需要を生み出す産業や経済活動は同じではありません。

そのため、ある機種の生産が伸びていても、ほかの機種が同じように成長するとは限りません。産業機械産業全体の動向を理解するには、総生産額だけでなく、どの分野が、どのような設備投資によって成長しているのかを見る必要があります。

大型設備から省力化機器へ

産業の発展に伴い、企業が機械に求める機能も変化します。工場の生産能力を大きくする段階では、大型の生産設備や動力設備が重要です。しかし、人手不足や人件費の上昇が問題になると、作業を自動化したり、少ない人員で運転できたりする機械への需要が高まります。

また、生産量を増やすだけではなく、品質を一定に保ち、事故を防ぎ、環境への負荷を減らすことも重要になります。産業機械メーカーは、単に機械を大型化するだけでなく、操作性、保守性、省エネルギー性、環境性能などを改善する必要に迫られました。

4. 産業機械産業の企業構造――中小企業と専門メーカーが重要な役割を担う

一つの巨大企業だけでは支えられない産業

産業機械には非常に多くの種類があり、機種ごとに必要な技術や顧客が異なります。大量生産できる標準的な機械もあれば、特定の工場や用途に合わせて設計・製造する機械もあります。そのため、産業機械産業では、幅広い分野を扱う企業だけでなく、特定の機械や部品に専門特化したメーカーも重要な役割を担います。

たとえば、建設機械、繊維機械、食品加工機械では、求められる技術が異なります。同じ分野のなかでも、加工する素材や生産規模、設置環境によって機械の仕様が変わります。こうした多様な需要に応えるには、専門的な知識を持つ企業が必要です。

この構造は、産業機械産業の強みであると同時に、経営上の弱点にもなります。特定の機種に特化した企業は、その分野の技術を深く蓄積できますが、主要な顧客の設備投資が減ると、受注が大きく落ち込む可能性があります。企業規模が小さければ、研究開発や海外展開に必要な資金を確保することも容易ではありません。

顧客ごとの仕様に対応する難しさ

産業機械は、完成品を店頭で販売する消費財とは異なり、導入先の工場や生産工程に適合させることが重要です。機械単体の性能が高くても、既存の設備とうまく接続できなかったり、操作方法が現場に合わなかったりすれば、期待した成果は得られません。

そのため、メーカーには、顧客の生産工程を理解し、設計、製造、設置、試運転、保守まで対応する能力が求められます。こうした仕事には、製品そのものの製造技術だけでなく、現場の課題を把握する力も必要です。

一方、個別の要望に応じた製品づくりは、製造コストの上昇や納期の長期化につながることがあります。標準化による効率化と、顧客ごとの要求に応える柔軟性をどう両立させるかが、産業機械メーカーの重要な経営課題です。

5. 技術導入と産業政策――近代化を後押しした制度と国際競争

機械工業の近代化を促した政策

産業機械産業の発展には、企業による投資や技術開発だけでなく、政策的な支援も関係していました。1956年には機械工業振興臨時措置法が制定され、機械工業の近代化を後押しするための制度整備が進められました。資料では、制度の実施や日本開発銀行による融資が、機械工業の近代化に貢献したことが指摘されています。

機械産業は、ほかの産業の生産性を高める基盤です。しかし、設備の近代化には多額の資金が必要で、技術導入や研究開発にも時間がかかります。企業が短期的な収益だけを重視すると、長期的な競争力を高めるための投資が不足するおそれがあります。政策による融資や近代化支援には、こうした投資上の制約を緩和する意味がありました。

ただし、政策支援が常に成功するとは限りません。支援が競争力の強化につながるかどうかは、技術革新や経営改善を促す仕組みになっているか、企業が市場の変化に対応できるかによって左右されます。

貿易自由化と外国企業との提携

日本の産業機械市場では、貿易自由化が段階的に進められ、外国企業との競争や技術提携も重要になりました。資料には、キャタピラーと三菱重工業の提携によるキャタピラー三菱や、小松製作所とインターナショナル・ハーベスターの提携による小松インターナショナルなどの事例が挙げられています。

外国企業との提携には、技術や製品設計、製造ノウハウを取り入れ、国内市場での競争力を高めるという意味がありました。一方で、国際競争が進めば、国内メーカーは従来の製品や生産方法を維持するだけでは対応できなくなります。

重要なのは、外国技術を導入すること自体を最終目的にしないことです。導入した技術を国内の生産現場や顧客の需要に合わせて改良し、自社の技術として蓄積できるかどうかが、長期的な競争力を左右します。

6. 1970年代の転換――省力化・自動化と公害防止機器の需要

成長の時代から、課題に応える時代へ

1960年代後半から1970年代前半にかけては、設備投資が大きく拡大する時期がありました。しかし、1973年の第一次石油危機をはじめ、資源価格の上昇や景気変動は、設備投資を取り巻く環境を大きく変えました。資料でも、1974年以降の景気低迷と産業機械の需要停滞が取り上げられています。

景気が悪化すると、企業は新しい工場を建設したり、生産能力を大幅に増やしたりする投資を先送りしやすくなります。設備投資に依存する産業機械メーカーにとって、これは大きな打撃です。

その一方で、社会や企業が直面する課題の変化は、新しい需要も生み出しました。資料では、省力化・自動化機器や公害防止機器が、当時の比較的好調な分野として挙げられています。とりわけ公害防止機器については、1974年の受注額が6,000億円を超えたと記されています。

公害対策が新しい機械需要を生んだ

高度経済成長期には、工場の生産能力が急速に拡大する一方で、大気汚染や水質汚濁などの公害問題が深刻化しました。企業には、生産量を増やすだけでなく、排煙や排水を処理し、環境への影響を抑えることが求められるようになりました。

こうした課題に対応するため、集じん装置、排煙処理設備、排水処理設備などの導入が進みます。公害対策は企業にとって追加的な負担となる面がありましたが、同時に、環境を守るための技術や機器を開発する産業に新しい市場をもたらしました。

ここには、産業発展の重要な教訓があります。社会問題への対応は、単に既存の産業活動を制約するだけではありません。問題を解決する技術が開発されれば、新しい製品や事業分野が生まれることもあります。環境規制や安全基準の変化を、技術革新や事業転換の契機として捉えられるかどうかが、企業の将来を左右します。

7. 産業機械産業が抱える課題――景気変動と技術革新への対応

設備投資に左右される経営

産業機械産業の根本的な課題の一つは、需要が景気や企業の設備投資計画に大きく左右されることです。消費者向けの商品であれば、日常的な買い替えや継続的な需要が市場を支える場合があります。しかし、産業機械は高額で、長期間にわたって使用されることが多いため、需要が毎年一定の割合で発生するとは限りません。

景気がよいときには企業が新しい設備を導入し、機械メーカーの受注が増えます。反対に、設備の過剰感が強まったり、資金繰りが悪化したりすれば、新規投資は延期されます。企業の業績が悪化する局面では、機械メーカー自身も売上の減少と設備稼働率の低下に直面します。

この問題に対応するには、製品の販売だけに依存しない事業構造が重要になります。設置後の保守点検、部品交換、修理、設備更新、稼働データの分析などを組み合わせれば、機械を販売した後も顧客との関係を維持しやすくなります。

省力化・自動化を継続的に進める

人手不足への対応や生産性向上の必要性は、産業機械の技術革新を促す大きな要因です。機械の動作を自動化するだけでなく、異常を検知するセンサー、設備を制御するソフトウェア、機械同士を連携させる通信技術などが重要になっています。

今日の視点から考えると、産業機械の競争力は、機械本体の性能だけでは決まりません。機械から得られるデータを活用し、故障の兆候を早期に発見したり、エネルギー消費を最適化したり、生産工程全体を改善したりする能力も重要です。

また、顧客が求めるのは、必ずしも高性能な機械そのものではありません。生産量の安定、品質の改善、保守費用の削減、安全性の向上など、経営上の成果を得られることが重要です。メーカーが機械を売る企業から、顧客の生産活動を支える企業へと役割を広げられるかどうかが、今後の競争力を左右します。

8. 産業機械産業から見える、日本のものづくりの強さと課題

産業機械産業の歴史を振り返ると、日本のものづくりが発展した背景には、単に製品を大量生産する能力だけでなく、他産業の設備投資を支え、現場の要求に応じて機械を改良する技術と企業群が存在していたことがわかります。

産業機械は、鉄鋼や化学、建設、食品加工など、さまざまな産業の生産活動を支えています。したがって、その競争力が高まれば、機械産業自身の輸出が伸びるだけでなく、機械を利用する産業の生産性や品質も向上します。反対に、国内で必要な機械を十分に開発・製造できなくなれば、ほかの産業の技術的な選択肢や供給の安定性にも影響が及びます。

同時に、産業機械産業は設備投資の波に左右されやすく、専門メーカーには資金や人材の制約もあります。だからこそ、短期的な受注の増減に対応するだけでなく、研究開発、専門技術の継承、標準化と個別対応の両立、海外市場の開拓、保守サービスの強化などを組み合わせていく必要があります。

高度経済成長期の日本では、工場や社会基盤を整備するための機械需要が、産業機械産業の成長を牽引しました。これからの時代には、省力化、環境対応、エネルギー効率の改善、デジタル技術との融合といった課題が、新たな機械需要を生み出す可能性があります。

産業機械産業の重要性は、機械そのものの生産額だけでは測れません。ほかの産業が何をつくり、どれほど効率よく、安全に、持続的に生産できるかを左右することにこそ、その本質があります。日本のものづくりの将来を考えるうえでも、産業機械産業は引き続き重要な位置を占めています。