「資源産業」とは何か。
「資源産業」とは何か。

地球温暖化や気候変動は、典型的な「一国だけでは解決できない問題」です。ある国が温室効果ガスを削減しても、別の国で排出が増えれば、その影響は国境を越えて地球全体に及びます。

しかも、問題をさらに難しくしているのが、**「誰がどれだけ責任を負うのか」**という問いです。

先進国は産業革命以降、大量の化石燃料を使って経済成長を実現してきました。一方、中国、インドなどの新興国は、近年になって急速な経済成長を遂げ、大量の温室効果ガスを排出するようになりました。

すると、「過去に排出してきた国」と「現在排出を増やしている国」のどちらが、どれだけ削減すべきなのかという難しい問題が生まれます。

この問題を考えることは、単なる環境政策を考えることではありません。経済発展、貧困、エネルギー、国際政治、南北問題、技術移転、資金援助、国際法を同時に考えることでもあります。

Contents

1.地球環境問題が国際政治の中心課題になった

①「一つしかない地球」という発想

地球環境問題が国際政治の重要なテーマとして認識されるようになった背景には、1970年代以降の環境意識の高まりがあります。

1972年の国連人間環境会議では、「かけがえのない地球」という考え方が強く打ち出されました。「Only One Earth」という言葉は、環境問題には国境がないという認識を象徴しています。

この発想は、それまでの国際政治とはかなり違ったものでした。

国家は基本的に自国の領土、自国民、自国経済を守るために政策を行います。しかし、大気、海洋、森林、生物多様性、気候などは国境で区切ることができません。

つまり、

「国家の利益」と「地球全体の利益」をどう両立させるのか

という新しい政治問題が生まれたのです。

②環境問題は「共有地」の問題でもある

気候変動は、経済学的には「共有資源」や「公共財」の問題として考えることができます。

大気には国境がありません。そのため、ある国が大量に温室効果ガスを排出しても、その影響を受けるのは排出した国だけではありません。

逆に、ある国が大きなコストをかけて排出削減を行っても、その恩恵はその国だけに限定されません。

ここに大きなジレンマがあります。

「自分だけ努力しても、その利益を独占できない」

からです。

したがって、各国が自国の利益だけを考えて行動すると、地球全体としては十分な対策が取れなくなる可能性があります。

これが、地球環境ガバナンスの難しさの出発点です。


2.気候変動問題は「科学」と「政治」が結びついた問題である

①IPCCが果たした役割

気候変動問題が国際政治の課題として本格化するうえで大きな役割を果たしたのが、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)です。

1988年にはIPCCが設立され、気候変動について世界各国の研究成果を集約し、科学的知見を整理する役割を担うようになりました。

ここで重要なのは、IPCCそのものが「環境政策を決定する政府」ではないことです。

科学者が観測結果や研究成果をもとに、

「温室効果ガスが増加している」

「地球の平均気温が上昇している」

「このまま排出が続けば、さらに大きな気候変化が予想される」

といった科学的知見を整理します。

その科学的知見を、各国政府が政策決定の材料として利用するわけです。

②科学的な問題なのに、結論は政治的になる

しかし、科学が問題を明らかにしたからといって、政策が自動的に決まるわけではありません。

「気温上昇を抑えるべきだ」という点で合意できても、

「どの国が?」

「いつまでに?」

「何%削減するのか?」

「費用は誰が負担するのか?」

「途上国の経済成長はどうするのか?」

という問題になると、科学だけでは答えが出ません。

ここから先は政治の領域です。

したがって気候変動問題は、科学によって問題が発見され、政治によって解決方法を決めなければならない問題なのです。


3.1992年の気候変動枠組条約が出発点になった

①国連気候変動枠組条約の成立

1980年代から気候変動への国際的な関心が高まると、国連の下で国際的な交渉が進められました。

1992年には「気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC)」が採択されます。

ここで重要なのが、すべての国を単純に同じ扱いにしなかったことです。

その背景にあるのが、「共通だが差異ある責任」、英語ではCBDR(Common but Differentiated Responsibilities)という考え方です。

②「責任は共通、しかし同じではない」

この考え方は、気候変動問題を理解するうえで非常に重要です。

地球温暖化はすべての国に関係する。

したがって、すべての国に責任がある。

しかし、これまでの排出量、経済力、技術力などは国によって違う。

だから、

「責任は共通だが、負担まで全く同じにする必要はない」

という考え方になります。

これは一見すると公平な考え方ですが、実際の交渉では非常に難しい原則になります。

なぜなら、先進国と新興国では「公平」の意味が違うからです。


4.先進国と途上国では「公平」の意味が違う

①先進国から見た公平

先進国からすると、

「現在、大量に排出している国にも削減責任を負ってもらわなければ、温暖化は止められない」

という主張になります。

特に中国やインドなどが急速に工業化すれば、先進国だけが排出削減を行っても地球全体の排出量を十分に抑えられない可能性があります。

②新興国・途上国から見た公平

一方、新興国や途上国からすれば、

「先進国は、過去200年にわたって化石燃料を使って経済成長してきた。なぜ自分たちだけが、これから豊かになる段階で排出を制限されなければならないのか」

という反論になります。

ここには、環境問題と開発問題の衝突があります。

たとえば、電力を十分に利用できない貧困層がいる国に対して、

「石炭火力を減らしなさい」

と言うだけでは簡単ではありません。

電力は工場を動かし、学校を照らし、病院を運営し、農業を近代化し、都市を発展させます。

つまり、

「温室効果ガスを減らすこと」と「貧困から脱出すること」

が、場合によっては同じ政策の中で衝突してしまうのです。


5.京都議定書は「先進国に具体的削減義務を課す」という画期的な仕組みだった

①1997年、京都で大きな一歩が踏み出された

1997年に開催されたCOP3、京都会議では、京都議定書が採択されました。

京都議定書の大きな特徴は、先進国を中心とする附属書I国に対して、温室効果ガスの削減目標を設定したことです。

つまり、それまでの「環境問題について協力しましょう」という一般的な国際協力から、

「あなたの国は、この期間にこれだけ削減してください」

という具体的な国際約束へ進んだわけです。

これは国際環境ガバナンスにとって非常に大きな進展でした。

②京都議定書には「市場メカニズム」も組み込まれた

京都議定書では、排出削減を柔軟に進めるための仕組みも導入されました。

代表的なのが、

排出量取引、共同実施、CDM(クリーン開発メカニズム)

などです。

CDMでは、先進国側の資金や技術を利用して途上国で排出削減事業を行い、その削減量を一定のルールのもとで活用する仕組みが設けられました。

これは非常に興味深い仕組みです。

「環境対策」と「途上国開発」を結びつけたからです。

たとえば、先進国の企業が途上国で省エネ設備を導入すれば、途上国には技術や投資が入り、先進国側には排出削減というメリットが生まれる。

つまり、

環境政策を国際的な投資・技術移転の仕組みに変える

という発想です。


6.京都議定書だけでは地球温暖化を止められない

①最大の問題は「誰を対象にするか」

京都議定書には重要な限界がありました。

先進国に削減義務を課す一方で、途上国には同じような義務を課していなかったことです。

当時は「先進国が歴史的責任を負う」という考え方に大きな意味がありました。

しかし、21世紀に入ると中国などの新興国の排出量が急速に増加します。

すると、

「現在の排出量を考えれば、新興国にも何らかの削減努力を求めなければならないのではないか」

という議論が強くなります。

ここで、従来の「先進国対途上国」という単純な構図が崩れ始めます。

②アメリカの参加問題

さらにアメリカは京都議定書をめぐって厳しい姿勢を示しました。

アメリカ国内では、途上国、とりわけ中国などに同様の削減義務がないことへの不満が強く、1997年にはバード=ヘーゲル決議が上院で採択されています。

これは気候変動交渉の根本的な問題を示しています。

世界全体の排出量を減らしたい。

しかし、自国だけが厳しい規制を受ければ、自国企業の競争力が低下するかもしれない。

すると国内政治が国際協力を制約します。

ここに地球環境ガバナンスの難しさがあります。


7.気候変動交渉は「環境問題」であると同時に「経済競争」の問題になった

①排出削減は産業構造を変える

温室効果ガスを削減するには、単に電気をこまめに消せばよいという話ではありません。

発電、鉄鋼、セメント、化学、自動車、住宅、物流、農業など、経済活動のほぼすべてが関係します。

つまり、気候変動対策は経済構造そのものを変える政策になります。

たとえば、石炭火力を減らせば石炭産業や関連産業に影響が出ます。一方、再生可能エネルギーや省エネルギー技術を普及させれば、新しい産業や雇用が生まれる可能性があります。

したがって、

環境政策は同時に産業政策でもある

のです。

②新興国にとっては「成長する権利」の問題になる

新興国にとって特に重要なのは、先進国がすでに大量のエネルギーを使って豊かになった後で、

「これからは環境のために排出を抑えなさい」

と言われることの不公平感です。

これは単なる外交上の反発ではありません。

工業化の途中にある国にとって、エネルギー利用は経済成長そのものだからです。

したがって、気候変動交渉では、

「地球を守ること」と「発展する権利」

をどう両立させるかが核心的なテーマになります。


8.EUは気候変動外交の重要な推進役になった――EUが比較的積極的だった理由

気候変動交渉では、EUが積極的な役割を果たしました。

EUは域内で排出削減政策を進めるとともに、国際交渉でも比較的高い削減目標を掲げてきました。

その背景には、環境問題に対する政治的関心だけでなく、エネルギー安全保障、技術開発、産業競争力などの要素もあります。

省エネルギーや再生可能エネルギーなどの技術を先行して発展させれば、将来の産業競争力につながる可能性があります。

したがって、

「環境規制は企業にとってコスト」

という見方だけではなく、

「環境規制を新しい産業を育てるきっかけにする」

という発想も生まれます。

これは現在のグリーン産業政策につながる重要な考え方です。


9.COPという仕組みが地球環境ガバナンスの中心に――毎年の交渉で少しずつルールを積み上げる

気候変動問題では、COP(締約国会議)が重要な役割を果たします。

1992年の枠組条約を基本的な土台として、各国がCOPに集まり、削減目標、資金、技術移転、森林、報告制度などについて交渉します。

しかし、参加国が非常に多いため、合意形成は容易ではありません。

国によって、

  • 経済発展段階
  • エネルギー構造
  • 排出量
  • 歴史的責任
  • 財政力
  • 技術力
  • 気候変動による被害

が大きく異なるからです。

このため、地球環境ガバナンスは「世界政府が命令する」という構造ではなく、多数の国が交渉を繰り返しながら少しずつルールを積み上げる仕組みになっています。


10.「測定・報告・検証」が国際環境ルールの重要な基盤になる

①本当に削減したのかをどう確認するのか

国際協定をつくっても、

「この国は本当に排出量を減らしたのか?」

という問題が残ります。

そこで重要になるのがMRVです。

Monitoring(監視・測定)
Reporting(報告)
Verification(検証)

という仕組みです。

つまり、各国がどれだけ排出しているのかを測定し、報告し、それが正しいかを検証する。

これは一見すると技術的な問題ですが、実は国際政治上非常に重要です。

なぜなら、数字を共通の基準で比較できなければ、削減目標そのものが意味を持たないからです。

②「信頼」が環境ガバナンスを支える

国際協力では、

「相手国が約束を守っているのか分からない」

という状態になると、協力が成立しにくくなります。

したがって、環境ガバナンスでは法律だけでなく、

測ること、報告すること、検証すること

そのものが国際制度の基盤になります。

これはWTOの紛争解決制度とも共通しています。

国際制度が機能するには、単に「ルールがあります」だけでは不十分で、ルールを確認できる情報と、それを評価する仕組みが必要なのです。


11.森林問題とCDMは「環境」と「開発」をつなぐ――途上国の森林をどう守るのか

気候変動対策では、森林も重要なテーマになりました。

森林は二酸化炭素を吸収するため、森林破壊を抑制することは温室効果ガス削減につながります。

一方、途上国にとって森林は、

農地開発、木材生産、鉱山開発、道路建設

などの経済活動とも関係しています。

そこで、

「森林を守りなさい」

とだけ言っても簡単にはいきません。

森林を守ることで失われる経済的利益をどう補償するのかという問題が生じます。

このため、REDDなど、森林減少・劣化の抑制を気候変動対策と結びつける仕組みが交渉の重要テーマとなっていきました。

ここでも、

環境保全+途上国の所得

という組み合わせをどう設計するかが課題になります。


12.COP15・コペンハーゲンは「世界が合意する難しさ」を象徴した――2009年、期待が一気に高まった

2009年のCOP15、コペンハーゲン会議は、京都議定書後の新しい国際枠組みをつくる重要な会議として世界から大きな注目を集めました。

しかし、最終的には各国の利害対立が大きく、期待された包括的な法的合意には至りませんでした。

その背景には、

アメリカと中国、

先進国と途上国、

新興国同士、

小島嶼国と化石燃料輸出国、

といった複数の利害対立がありました。

特に小島嶼国にとっては、温暖化は単なる経済問題ではありません。

海面上昇によって国土そのものが脅かされる可能性があります。

一方、産油国にとっては、化石燃料輸出が国家経済の基盤です。

同じ「気候変動対策」という言葉でも、国によって意味が全く違うのです。


13.COP16・カンクン合意は「完全な決着」よりも制度の積み上げを重視した

交渉を前進させるための現実的なアプローチ

2010年のCOP16、カンクン会議では、コペンハーゲン以後の交渉を前進させるための合意が形成されました。

ここでは、気温上昇を2℃程度に抑えるという長期的な目標、各国の削減行動、MRVなど、さまざまな制度的枠組みが確認されています。

これは地球環境ガバナンスの一つの特徴を示しています。

国際政治では、最初から「完全な世界条約」をつくることが難しい。

そこで、

大きな原則を合意する
↓
各国の行動を積み上げる
↓
報告・検証する
↓
次の交渉でさらに強化する

という方法が採られます。

つまり、地球環境ガバナンスは「一度の交渉ですべてを解決する制度」ではなく、長期的に制度を発展させていくプロセスなのです。


14.「2℃」という目標は科学と政治をつなぐ数字に――地球の平均気温をどこまで抑えるのか

気候変動交渉では、「気温上昇を何℃までに抑えるのか」という問題が重要になります。

IPCCの科学的分析を踏まえ、2℃という目標が国際交渉の重要な基準になりました。

しかし、2℃という数字だけを決めれば問題が解決するわけではありません。

2℃以内に抑えるためには、世界全体の排出量をどこまで減らす必要があるのか。

そのために各国はどれだけ削減しなければならないのか。

さらに、その費用を誰が負担するのか。

こうした問題を逆算していかなければなりません。

つまり、

科学が「何が危険なのか」を示し、政治が「誰が何をするのか」を決める。

この関係が、気候変動ガバナンスの基本構造になります。


15.地球環境ガバナンスには「資金」が欠かせない

途上国に「削減してください」だけでは通用しない

途上国が排出削減や気候変動への適応を進めるためには、資金が必要です。

たとえば、古い石炭火力を高効率設備へ転換する、新しい再生可能エネルギー設備を導入する、省エネルギー技術を導入する、森林を保全する、洪水や干ばつに備える、といった政策にはコストがかかります。

そのため、気候変動交渉では、

「誰が費用を負担するのか」

が常に重要な争点になります。

これは単純な環境政策ではありません。

先進国から途上国への資金移転という、国際金融・開発援助の問題とも結びついています。


16.気候変動問題は「南北問題」を再構築している

20世紀の国際政治では、「先進国=北」と「途上国=南」という南北問題が大きなテーマでした。

気候変動問題も、一見するとその延長線上にあります。

しかし、21世紀になると状況が複雑になります。

中国やインドなどの新興国が急速に経済成長し、途上国という一つのカテゴリーだけでは説明できなくなったからです。

「先進国対途上国」という二分法では、

中国

インド

ブラジル

産油国

後発開発途上国

小島嶼国

など、それぞれの立場の違いを説明できません。

つまり、地球環境ガバナンスでは、途上国を一つのグループとして扱うこと自体が難しくなったのです。


17.新興国の台頭が地球環境ガバナンスを変える――「先進国が責任を負う」だけでは解決できない

新興国の台頭によって、気候変動問題は大きな転換点を迎えました。

中国やインドなどの経済成長によって世界のエネルギー需要が拡大すれば、先進国だけの削減では十分な効果を上げられない可能性があります。

そのため、

「新興国にも排出削減に貢献してもらう必要がある」

という議論が強まります。

しかし、それは直ちに「先進国と新興国を全く同じ義務にする」ということを意味しません。

歴史的責任、現在の排出量、人口、所得、技術力などを考慮する必要があります。

このため、21世紀の環境ガバナンスでは、

「同じルール」ではなく「公平なルール」

をどうつくるかが重要になります。


18.地球環境ガバナンスは「世界政府なしの統治」である――国家を超える問題を国家だけで解決する

気候変動問題には、世界政府が存在しません。

国連にも、世界各国に強制的に排出削減を命令する世界政府としての権限があるわけではありません。

それでも各国は、

国際条約を結び、

COPで交渉し、

科学的知見を共有し、

排出量を報告し、

資金を拠出し、

技術を移転し、

国際的な制度を少しずつ構築しています。

これが「グローバル・ガバナンス」です。

政府が一つ上に存在して「統治」するのではなく、国家、国際機関、科学者、企業、NGOなど、多様な主体が協力しながら問題を管理するのです。


19.NGOや企業など「国家以外の主体」も重要になった――政府だけでは環境問題を動かせない

気候変動交渉では、各国政府だけでなくNGOなどの非国家主体も重要な役割を果たしています。

環境NGOは科学的情報を発信したり、各国政府に政策強化を求めたり、国際交渉を監視したりします。

企業も重要です。

温室効果ガス排出の多くは企業の生産活動やエネルギー利用と関係するため、企業が技術革新を進めなければ、政府の規制だけでは十分な排出削減を実現できません。

そのため、

国家
+国際機関
+企業
+科学者
+NGO
+市民社会

という複数の主体が関わるガバナンスが必要になります。


20.新しい地球環境ガバナンスに必要なのは「公平」と「実効性」の両立――公平すぎても実効性がなく、厳しすぎても合意できない

気候変動交渉には、二つの要求があります。

一つは公平性です。

歴史的に多く排出してきた国には、それ相応の責任を負ってほしい。

もう一つは実効性です。

実際に温室効果ガスを減らさなければ、どれほど公平な制度をつくっても気候変動は止まりません。

この二つは、ときに衝突します。

先進国だけに大きな負担を求めれば、世界全体の排出削減が不十分になる可能性があります。

反対に、新興国に先進国と同じ負担を求めれば、新興国の発展を阻害し、国際的な合意そのものが成立しにくくなります。

したがって必要なのは、

「誰が正しいのか」を決めることではなく、「異なる立場の国が参加できる制度」を設計すること

なのです。


21.地球環境問題は「成長か環境か」という二択ではない――グリーン成長という発想

環境問題を考えるとき、以前は、

「経済成長を優先するのか、それとも環境を守るのか」

という二者択一で語られることが多くありました。

しかし、気候変動対策が進むにつれて、この構図は変わってきます。

省エネルギー技術、太陽光発電、風力発電、蓄電池、電気自動車、水素、次世代原子力、CCUSなど、新しい技術そのものが巨大な産業になる可能性があるからです。

すると環境対策は、

「経済成長を犠牲にする政策」

ではなく、

「次の経済成長をつくる産業政策」

にもなります。

これは新興国にとっても重要です。

環境技術を先進国から一方的に輸入するだけではなく、自国の産業競争力を高める機会にもなり得るからです。


22.地球環境ガバナンスの本質は「負担の分け方」にある

気候変動問題を突き詰めていくと、最終的には非常にシンプルな問いに行き着きます。

「地球を守るための費用を、誰がどれだけ負担するのか」

という問いです。

これには複数の考え方があります。

過去にたくさん排出した国が負担するのか。

現在たくさん排出している国が負担するのか。

人口の多い国が負担するのか。

経済力のある国が負担するのか。

一人当たり排出量の多い国が負担するのか。

被害を受ける国を支援するのか。

こうした考え方のどれを採用するかによって、国際交渉の結果は大きく変わります。

だからこそ気候変動交渉は、単なる「環境会議」ではありません。

世界の富、産業、エネルギー、技術をどう再配分するかをめぐる交渉でもあるのです。


23.「新興国からの挑戦」という視点で見る地球環境問題

この問題を新興国の台頭という視点から見ると、さらに面白い構図が浮かび上がります。

20世紀の国際環境政策では、先進国が環境基準や国際制度を主導し、途上国はそのルールに対応する側という構図が比較的明確でした。

しかし21世紀になると、中国、インド、ブラジルなどの新興国が世界経済の中心的プレーヤーとなります。

すると環境問題でも、

「先進国がルールを決め、新興国が従う」

という構図が成立しなくなります。

新興国は、

「自分たちにも発展する権利がある」

「歴史的排出量を考慮すべきだ」

「技術や資金の提供が必要だ」

と主張します。

一方、先進国側からは、

「現在の排出量を考えれば、新興国の参加なしには気候変動対策は成立しない」

という主張が出てきます。

この二つの主張がぶつかるところに、21世紀の地球環境ガバナンスがあります。


24.新たな地球環境ガバナンスとは「全員に同じ義務」ではない

地球環境問題に対する国際協力を考えるとき、最も重要なのは「全員が同じことをする」という考え方から離れることです。

国によって、

経済発展段階も、

排出量も、

人口も、

歴史的責任も、

エネルギー資源も、

気候変動への脆弱性も、

技術力も、

財政力も、

大きく違います。

だからこそ、

「共通の目標を持ちながら、負担の仕方は異なる」

という制度設計が必要になります。

これは気候変動だけではありません。

感染症、海洋汚染、生物多様性、森林破壊、資源問題など、21世紀の地球規模課題の多くに共通する考え方です。


25.地球環境ガバナンスの未来――「国家間交渉」から「地球規模の協働」へ

気候変動問題の歴史を見ると、国際社会は一気に完成された制度をつくったわけではありません。

1970年代の環境問題への関心の高まりから、1988年のIPCC設立、1992年の気候変動枠組条約、1997年の京都議定書、2009年のCOP15、2010年のCOP16へと、交渉と制度形成を積み重ねてきました。

しかし、その過程で明らかになったのは、地球環境問題には「完全な解決策」が簡単には存在しないということです。

先進国には歴史的責任があります。

新興国には現在の大きな排出量があります。

途上国には発展する権利があります。

小島嶼国には生存そのものにかかわる危機があります。

企業には技術と投資を動かす力があります。

科学者には将来のリスクを示す役割があります。

NGOには政府や企業を監視する役割があります。

このように考えると、21世紀の地球環境ガバナンスに必要なのは、誰か一つの主体が世界を支配する仕組みではありません。

必要なのは、

「異なる利益を持つ主体が、それでも共通の地球環境を守るために協力できる制度」

です。

そして、「新興国からの挑戦」が意味するところも、単に中国やインドなどが国際秩序に反発しているということではありません。

むしろ、新興国の経済成長によって、これまで先進国中心に形成されてきた地球環境ガバナンスそのものが、より多極的で、公平性を重視した制度へ変わることを迫られているのです。

気候変動問題は、その変化を最も鮮明に示すテーマの一つです。

そして最も重要なのは、環境と経済を対立させることではありません。

「どうすれば、地球環境を守りながら、これから豊かになろうとする国々にも成長の機会を与えられるのか」

という問いを、国際社会全体で解かなければならないことです。

この問いこそが、21世紀の地球環境ガバナンスを考える出発点になります。